Innocence/Rain/Flapping

 

卒業したにもかかわらず今年も愛知県芸の芸祭でいろいろぶちかましてきましたが、中でも重い企画だったのが後輩、堀江祥広さんの主催する「オーケスとら」のために書いた新作でした。

 

ブラームスがメインとなるプログラムであるということは事前に伝えられていたため、それにちなんだ作品をと考えていたのですが、今回は僕の大好きなヴァイオリンソナタ「雨の歌」の3楽章を素材にすることにしました。

問題は素材をどのように処理するかということですが、残念なことに僕はこの作品のすべてが好きで、より残念なことに、中でも一番好きなところはなによりその構成であり、つまり作品全体に渡ってその音楽を引用しないことにはその魅力を再現できないだろうと考えていました。そこで本作では音楽語法や展開というアイデアそのものを現代的にアップデートしつつ、原作者に寄り添った作品を書こうと思いました。

作品は典型的なロンドです。ブラームスは比較的硬派なので、繰り返されるルフランに大きな変化を加えていませんが、形式についてよく言われるように、クプレを経たルフランというのは、以前のそれとだいぶ聴こえ方が異なるものであり、私は現代においては、繰り返される部分に対して何らかの変化を加えていくのが自然だと考えました。

僕はそこで、暗に仄めかされる引用素材が繰り返されるにつれ徐々に明確化するという方向性を与えることとなりました。これはまったく私の恣意的なものと思われるかも知れませんが、3楽章の基本的な構成としての暗→明の流れをアップデートしたものと説明することが可能です。

今回アップロードした後半部分ではほとんどの箇所が原曲を彷彿とさせる作りとなっており、ブラームスと現代の映画音楽のオーケストレーション様式をハイブリットに用いた一種の編曲と呼べるものになっています。これは私の、感情表現の上で西洋音楽カデンツに依存することへの一種の諦めと言えるのかもしれません。僕らは今日、確実に西洋音楽の和声進行が文脈化した世界に生きており、その働きは今作の表現上確実に必要なものでした。これが現代音楽メインではない演奏会を意識した一種のサービス精神なのか、締め切り前の苦肉の策だったのか、プロセス段階での意識が自分でも未だにわからないのですが、結果に対して自分は満足がいっています。

合わせ、初回はLINE通話で合わせに立会い(無謀でした)、2回目の練習のときにいろいろあって僕が振ることに(喧嘩とかは全くないですよ!)。僕の指揮で練習できたのは合計1時間と少しくらいでしたが、めちゃくちゃ熱心に取り組んでいただいたお陰でなんとかうまくいきました。

今回はじめて出会えた人も多く、そしてそんな方にも丁寧に演奏していただき、僕としては忘れられない素晴らしい経験になりました。次はもっといい曲をかいて、もっとしっかり練習してできるとよいなあなんて思っていますが、いつになるやら...。

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ちなみに本作で私が引用した«雨の歌»はブラームスクララ・シューマンへの愛を詰め込んだ作品であり、同演奏会では不貞を題材にしたシューマンの«ゲノフェーファ»序曲とブラームス交響曲が演奏されたわけですが、(クララと二人の)三角関係プログラムになったのは全くの無意識でした。

僕は浮気や不倫は嫌いだけど、ブラームスの愚直さはなんか嫌いになれないな〜と思います